公開日 2022/05/30 15:00
変更日 2024/06/20 20:02
人気ドラマ『愛の不時着』のロケ地でもある韓国の人気リゾート地、済州島。その歴史の闇と在日コリアンの母娘の絆を描く珠玉のドキュメンタリー『スープとイデオロギー』(6月11日公開)をご紹介します。
このところ日本ではK-POPや韓流ドラマをきっかけに韓国にハマる人が後を絶ちません。そのエンタメシーンの煌めく光の影に北朝鮮や在日コリアンの問題が横たわっているのです。しかも、多くの映画・ドラマや、K-POPアイドルのミュージックビデオの撮影地として使われている聖地にこんな殺戮の歴史があったとは‥。
在日2世のヤン ヨンヒ監督が激動の母親の人生にスポットを当てた本作は韓国への理解を深めるためにもぜひ観てほしいドキュメンタリーです。
大阪・生野区生まれ、在日コリアンのオモニ(母)。2009年にアボジ(父)が亡くなってからは大阪でずっと一人暮らしだ。
ある夏の日、朝から台所に立ったオモニは、高麗人参とたっぷりのニンニクを詰め込んだ丸鶏をじっくり煮込む。
それは、結婚の挨拶にやって来るヨンヒの夫カオルさんにふるまうためのスープだった。
新しい家族に伝えたレシピ。突然打ち明けた「済州4・3事件」の壮絶な悲劇。
アルツハイマーでしだいに記憶を失っていく母を、ヨンヒは70年ぶりに春の済州島へ連れていく。
(公式サイトより)
※「済州4・3事件」とは
朝鮮半島が南北二つの国家に分断される直前の1948年4月3日、朝鮮半島の南側だけでの単独選挙に反対する済州島の島民らが武装蜂起し、軍や警察の鎮圧過程で多くの島民が犠牲になった。犠牲者数は公式に認められただけで1万4千人を超えるが、実際には数万人とも言われる。
ヤン ヨンヒ監督は、大阪・生野区のコリアンダウンに生まれ育ちました。
父は在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)で働き、母親は父を支える活動家という環境でしたが、監督自身は北朝鮮の思想に疑問を抱き、父親を主人公に自身の家族を描いた映画『ディア・ピョンヤン』(05)、北朝鮮に住む姪の成長を描いた『愛しきソナ』(09)、在日の家族に迫る北朝鮮の暗部を描き脚本・監督した初の劇映画『かぞくのくに』(12)など、家族を映すことを通じ、自らのルーツと北朝鮮との関係を描いてきました。
本作ではこれまで母親が秘密にしてきた壮絶な過去と、監督と結婚した夫と母が信頼関係の深めていく様子を描き、“ヤン一家ドキュメンタリー三部作” の完結編。DMZ国際ドキュメンタリー映画祭2021のグランプリにあたるホワイトグース賞、ソウル独立映画祭2021の特別賞を受賞と高い評価を受けています。
監督は「タイトルには、思想や価値観が違っても一緒にご飯を食べよう、殺し合わず共に生きようという思いを込めた。1本の映画が語れる話なんて高が知れている。それでも、1本の映画が、世界に対する理解や人同士の和解につながると信じたい」と語っています。