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ジョニー・トー監督作のリメイク『毒戦 BELIEVER』が描く男同士の友情の“謎”とは?

公開日 2021/08/29 21:38

変更日 2024/06/20 14:33

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香港映画界の巨匠ジョニー・トー監督作『ドラッグ・ウォー 毒戦』(2012)の韓国版リメイクである『毒戦 BELIEVER』(2018)。巨大麻薬組織摘発に奔走する刑事と爆破事件を生き残った青年との危険な潜入捜査が韓国映画らしいタッチで描かれる。香港版では語られなかった刑事と青年の不思議な関係性の“謎”に迫る。

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1997年、香港がイギリスから中国へ返還されたことを機にハリウッドに拠点を移したウー監督を横目に、トー監督は香港に留まり続け、あくまで朋友の熱いドラマを描き続けた。ラウ・チンワンとレオン・ライというブサイクとイケメンが朋友になる忘れがい『ヒーロー・ネバー・ダイ』(1998)で描かれたのは、違う組織に属する凄腕の殺し屋の間に芽生える不思議な絆だ。一方が組織から見捨てられ、犬死にすると、一方が朋友のために命をかけた復讐に挑む。「仁義」を貫くヤクザな男たちの泥臭い生き様。その衝撃のラスト、ラウを車椅子に乗せ、見事復讐を遂げるレオンの孤独な姿がカッコ良すぎた。『ザ・ミッション 非情の掟』(1999)、『エグザイル/絆』(2006)、『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』(2009)では、名優アンソニー・ウォンが朋友のために命がけで華麗な銃撃戦を繰り広げていた。

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それなのに、『ドラッグ・ウォー 毒戦』はどうしたというのか。それどころか、ラストでは朋友のために身体を張るどころか、死刑から救ってくれた刑事を香港の麻薬取引を裏で取り仕切っている7人衆たちとの土壇場の取引中に裏切ったあげく、自分一人だけ助かろうと銃撃戦の最中に兄を置き去りにして逃げようとする始末。レオン・ライと同じくらい人気のイケメン俳優ルイス・クーはトー監督の世界にはあるまじき悪人中の悪人だ。当然スッキリすることなく、クーは薬物投与によって死刑が執行され、後腐れが残って仕方ない。これはおそらく嘘と裏切りにまみれた現実社会へのトー監督なりの責任ある皮肉なのだろうと解釈するしかなさそうだが、リメイク版のイ・ヘヨン監督は、おそらくトー監督のファンではなかっただろうかと思う。トー監督が描くことを自らに禁じたこの朋友のドラマをリメイク版ではその主軸に据えているからだ。

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WRITER INFOライター情報

加賀谷健