公開日 2023/07/06 20:30
変更日 2024/06/20 14:33
(C)2023「ヴィレッジ」製作委員会
横浜流星主演映画『ヴィレッジ』(Netflixで配信中)は、盟友・藤井道人監督との実に6度目のタッグ作品となった。「能」の世界を借りた本作の映像空間で、横浜は、喜怒哀楽のすべてを複雑な表情で体現した。その「顔」は、なぜ忘れられない表情なのか。「イケメンと映画」について考察する筆者が解説する。
(C)2023「ヴィレッジ」製作委員会
『ヴィレッジ』は、日本の古典芸能である能の世界を借りている。能は最も簡素な舞台芸術だが、簡素だからこそ、むしろ比類なき芸術性が際立つ。映画冒頭、薪能の舞台でシテ(主役)の役者が舞う。舞台の正面外に焚火を配置した薪能は、夢か現か幻か定かでない世界を醸し、囃し立てる。
客席でひとりの少年が、舞台に熱い視線を送る。実はこれは、この少年の酷い過去と結びついた夢なのだ。悪夢にうなされて目覚めた片山優(横浜流星)が、荒らげた息を深く吸う。なんて生々しい息遣いなんだろう。キョロキョロ動く目を手持ちカメラの微動が捉える。横浜の目元のアップを見て、観客は、逆に夢をみはじめている気分だ。
カメラが引いて、汚い部屋の万年床で横になる横浜の顔だけをわずかな光りが照らす。顎には、ひげをたくわえている。横になったまま、タバコに火を点ける。目元のアップといい、寝タバコする横顔といい、一度見たら忘れられない。横浜流星の顔が、矢継ぎ早に目の前を移ろうこの体験、不思議な感覚だ。