公開日 2023/10/20 11:45
変更日 2024/08/28 15:23
INGLEWOOD, CALIFORNIA - DECEMBER 06: (EDITORIAL USE ONLY. NO COMMERCIAL USE.) V of BTS performs onstage during 102.7 KIIS FM's Jingle Ball 2019 Presented by Capital One at the Forum on December 6, 2019 in Los Angeles, California. (Photo by Jeff Kravitz/FilmMagic for iHeartMedia)
K-POPアーティストのカテゴライズを超えてきたようだ。ここまでパーソナルな物語として楽曲を紡ぎ、過去と現在のR&Bシーンをつなぐ「BTS」V(以下、テテ)。そのニューEP『Layover』は、間違いなく歴史に残る名盤ではないだろうか?
さて、大変キャッチーで大衆的なグクの「Seven(feat.Latto)」に対して、テテの『Layover』はいかにもパーソナルな感性にあふれている。まずジャッケットワークは、彼の愛犬ヨンタンが配されている。サウンドや音像は、紛れもないドR&B。元々BTSがR&Bやソウルから影響を受けていたとはいえ、テテのソロはより強烈な深化を湛えている。
それは単なる影響ではなく、愛好だ。テテが影響を受けたアーティストの筆頭に挙げるのは、ネオソウルの伝道師エリック・ベネイ。ぼくも6月の来日公演で観てきたけれど、現在55歳にしてあの声量と色気はあまりにも若々しいもので、客席でひっくり返りそうになった。それからフェイバリット曲としては、H.E.R.の「Every Kind Of Way」や彼女をフィーチャーしたダニエル・シーザーの「Best Part(feat.H.E.R.)」(2017年)など、クラシカルな雰囲気があるブラック・ミュージックを偏愛するようである。なるほど確かに『Layover』全体に漂うのは、ネオソウル感や90s的な懐かしさ、そしてジャズ要素のきらめきだ。一時期はサックス奏者を目指していたというから、ジャズ的な意味では、現在93歳のレジェンド穐吉敏子が打ち鳴らすピアノの粒立ちをも想起させる。
テテは自分の趣味嗜好を包み隠すことなく、表現として見事に昇華している。これほどのパーソナリティ、これこそ芸術家である証ではないか。韓国映画史上初のアカデミー賞作品賞を『パラサイト 半地下の家族』(2019年)で受賞(第92回)したポン・ジュノ監督は、スピーチで客席にいる同賞候補者でもあったマーティン・スコセッシ監督に賛辞を送りながら、スコセッシ監督の言葉を引用した。「最もパーソナルなことが最もクリエイティブ」。『Layover』は言わばテテのパーソナルな物語、人生そのものの結晶であり、私小説的な楽曲作りをモットーにするR&Bマナーを心得ている。