最新作ドラマも好調のアン・ボヒョン35歳。初主演『軍検事ドーベルマン』で、“再発見”から“限界突破”へ

歳を重ねた初主演での意気込み

　こういう表層的な比較は好かないが、世界的な知名度では確かにパク・ソジュンの方が上ではある。オム・テファ監督によるディザスター映画『コンクリート・ユートピア』（2023年）での静かな佇まいには、むしろダイナミックな動のポテンシャルを感じたし、知名度と演技力も比例していた。でもぼくは、あのチンピラ金髪を演じたアン・ボヒョンにこそときめきを感じてしまう。パク・ソジュンのように静と動を同時に持つことはないが、静か動か、そのどちらかにはっきり振り切れば、相当量のエネルギーを放出してくれる。パク・ソジュンのとらえどころがない器用さよりもアン・ボヒョンのハッキリした感じの方が個人的にはしっくりくる。

　話題の初主演作『軍検事ドーベルマン』では、そんなポテンシャルが見事に解放されている。『梨泰院クラス』と打って代わり、今度はアン・ボヒョンの演じる役が転校生として設定され、年不相応な高校生役がどんどん板についてきた印象。転校を繰り返す、持ち前のヤンチャさは残しつつ、中卒で司法試験の難関をくぐり抜けるド・べマンを冒頭数分でさくさく演じる。就職活動の面接で髪をちゃんとわけた精悍（せいかん）なビジュアルを見れば、ときめかないはずもない。ヤンチャ＆オチャメetc、視聴者の押さえるべきツボをちゃんと押さえてくる抜かりなさも初主演の意気込みだろうか。

　とにかく好感度抜群。悪役イメージなんて、これで綺麗さっぱり払拭さ。とでも言いたげな軽妙な調子。第1話にして、すでに完璧につかまれてしまった。100点。いやいや、120点。ツボを押されたからには、こちらも太鼓判を押し返したくなる。冒頭場面では、高層ビルの屋上から逆さ吊りにされるのだが、若いころはボクシングを極めたというから、アクションもお手のもの。こざっぱりしていながら、やるときは“限界突破”する。なるほど、『梨泰院クラス』で“再発見”などと言われたこの人の才能は、ある年齢に達した瞬間に急上昇する。現在35歳。歳を重ねた上での初主演作。温存していたものがすべて放出されたということだろうか。