公開日 2024/05/02 17:45
変更日 2024/09/17 15:05
(C)2024「青春18×2」Film Partners
台湾のスーパースター俳優シュー・グァンハンと清原果耶の共演で描く恋愛映画『青春18×2 君へと続く道』が、5月3日(金)から全国で公開される。監督は、『新聞記者』(2019年)の藤井道人。映画化の企画は、チャン・チェン……。コラムニスト・加賀谷健が、台湾を舞台に俳優との有機的なつながりを感じる本作を解説する。
(C)2024「青春18×2」Film Partners
この外気をまとう人物もいい。とにかく絵になる人だ。台湾出身のジミー・ライによる紀行エッセイを原作とする本作では、台湾を代表するスーパースター俳優シュー・グァンハンとロケーションの組み合わせが骨格となる。36歳の現在と18年前のジミーをそれぞれ、さまざまなロケーションを舞台に演じる。最高の組み合わせだからこそ、絵葉書のような画面連鎖になってしまうことだけは気をつけなければならない。絵葉書映画とは、さっき説明した雰囲気映画の悪しきサブジャンルだからだ。
その上で本作に対してひとつだけ気になったところがある。冒頭、失意の台南と東京が一瞬描かれたあと、18年前の台南に舞台が移る。そしてまた18年後の現在、今度は鎌倉。ジミーが愛読していた漫画作品が『SLUM DUNK』。そのオープニングを飾る鎌倉高校前駅に聖地巡礼というわけ。電車に揺られるジミー。車内の空気感と彼の身体が溶け合っている。なのに次のカットでは、この空気が分断されるように、ジミーが揺られる電車の外、海辺を走る電車が俯瞰で捉えられるのだ。江ノ電が鎌倉高校前駅に到着するときの醍醐味は、車窓ぎりぎりまで海辺の景色がグワッと迫ってくること。どうしてジミーが揺られる車窓の景色をそのまま写さず、わざわざ後景(車窓)をぼかしてしまったのか。
あの俯瞰だけがやけに絵葉書っぽいなとぼくは正直思ったのだが、まぁでもこれは、そのあとの場面でシュー・グァンハンを画面上に際立たせるための藤井監督のちょっとした息抜きだと理解しておこう。そもそも本作の映画化を企画したのは、エドワード・ヤン監督の『牯嶺街少年殺人事件』(1991年)で映画デビューしたチャン・チェンその人だ。空気映画の伝道師に導かれた本作は、このあと鎌倉から長野に舞台は変わり、ジミーがふらっと立ち寄る居酒屋の場面が素晴らしい。手間ひまかけて作られた感の信州そばを前に、「おいしそう」と感動を隠さないジミーのひと言、瞬間の表情は見えないが、すごくいい。また食べながら店主と会話するシーンで見せる彼の笑顔。この表情を撮るためだけでも、この映画は公開されるべきだというくらい。2019年の出演作『罪夢者』や『ひとつの太陽』を見ても、確かにシュー・グァンハンの控えめな表情が、むしろ豊かに華やいで見えるのが魅力。台湾のスーパースターは、空気に溶け込むこともできれば、空気そのものになることもできる。