公開日 2024/05/16 11:45
変更日 2024/09/09 16:35
BEIJING, CHINA - JANUARY 4: (CHINA OUT) Zhang Zhen arrives at the premiere of \"Red Cliff Part 2\" on January 4, 2009 in Beijing, China. (Photo by China Photos/Getty Images)
シュー・グァンハンと清原果耶が共演し、藤井道人監督が演出する。しかも映画化の企画者がチャン・チェン。5月3日から全国で公開されている『青春18×2 君へと続く道』はそんな豪華な布陣の作品だが、この機会に本作の立役者チャン・チェンの活躍を振り返っておきたい。コラムニスト・加賀谷健が解説する。
とはいえぼくがチャン・チェンの姿をスクリーン上に見るのは、たぶん『黒衣の刺客』(2015年)以来だろう。ホウ・シャオシェン監督の新作ということで劇場に駆けつけて見た同作で、チェン扮する暴君の佇まいには圧倒されるばかり。たぶんこの佇まいとジョン・ウー監督による国志スペクタクル『レッドクリフ』2部作(2008〜2009年)で演じていた孫権役がハリウッドデビュー作『DUNE』のキャスティングの決めてになったんじゃないかな。『レッドクリフ』は、誰推しで見るのかでそれぞれ見方が変わるだろうけれど、特に推しの武将がいないぼくからすると、孫権でも曹操でも劉備でもどの武将にもワクワクする。でもあえていうなら、トニー・レオンが演じた周瑜は特別よかった。
チョウ・ユンファが亜州影帝(アジアの映画王)と呼ばれて久しいが、トニー・レオンはあの作品、この作品、もうとにかくどこにでも登場する。レスリー・チャンとのカップル役を演じたウォン・カーウァイ監督の『ブエノスアイレス』(1997年)は忘れられない。ベッド上のトニーとレスリーがむんむんの色気をこれでもかと発するものだから、湿気でびしゃびしゃになってよく見えないんじゃないかと思ったくらい。そんなふたりの間に入ってくるのが、チェン。
ドアマンをクビになったトニーがコックとして働く店の同僚を演じた。やたら耳がよくて他人の会話ばかり聞いているちょっと変わり者だがいい奴。トニーとレスリーの隙をついて独特の魅力を放ってくる。色気3人組が徒党を組んだような作品だった。時代は下って、2013年、カーウァイ監督がトニー主演で撮ったクンフー映画『グランド・マスター』でもチェンが出演している。日本兵から逃れて列車で息を潜めるカミソリ(チャン・チェン)。チェンの顔がクロースアップで画面いっぱいに写る。カメラはやや俯瞰の位置から、視線だけをパッと動かすその顔をじっと観察するように捉える。カーウァイ監督の映画はだいたいが断片的な映像の華麗な集合体という感じだが、トニー扮するイップ・マンが奏でる主旋律に対して短いパッセージをきらっと聴かせてくれる。そんな名演だった。