公開日 2024/05/16 11:45
変更日 2024/09/09 16:35
BEIJING, CHINA - JANUARY 4: (CHINA OUT) Zhang Zhen arrives at the premiere of \"Red Cliff Part 2\" on January 4, 2009 in Beijing, China. (Photo by China Photos/Getty Images)
シュー・グァンハンと清原果耶が共演し、藤井道人監督が演出する。しかも映画化の企画者がチャン・チェン。5月3日から全国で公開されている『青春18×2 君へと続く道』はそんな豪華な布陣の作品だが、この機会に本作の立役者チャン・チェンの活躍を振り返っておきたい。コラムニスト・加賀谷健が解説する。
という具合にチャン・チェンを語るということはそのまま映画の深淵にどんどん潜っていくようなもの。だからこそあえて触れずにここまでタイトルを伏せてきた作品がある。1991年公開の『牯嶺街少年殺人事件』。東京国際映画祭で喝采を浴びるなど、日本では特に人気がある台湾映画だ。監督は、エドワード・ヤン。チェンは15歳のとき、同作で俳優デビューした。
白いシャツに白い短パン、靴下まで白。純白のデビュー作というわけである。短い前髪はやけになでつけてあるセンターわけでリボンみたいに見える。『レッドクリフ』や『DUNE』のチャン・チェンしか知らなければ、これは驚くだろう。チェン扮するシャオスーが、慌てて教室に入ってきて、先生の号令で着席する。木の机がズラッと並ぶ教室で、みんなが一斉にペンを手にかりかり書く様子は、フランソワ・トリュフォーの『大人は判ってくれない』(1959年)さながらの光景。同作の主人公にしてフランス映画の永遠のアイドル、アントワーヌ・ドワネル少年の雰囲気をどことなくまとわせているのもいかにも少年映画の傑作らしい。
『牯嶺街少年殺人事件』によって映画俳優として生きることを約束されたチェンだが、年相応に一度学業を優先したあと、再びヤン監督の『カップルズ』(1996年)で映画界に戻ってくる。映画の方がその才能に惚れ込んでしまったのだから。作品に対してチャン・チェンという実存が常に先行してきたような気がする。だからこそ『青春18×2 君へと続く道』では映画化企画というプロダクションの起点を担ったのだ。旅をテーマにしていることもよかった。『ブエノスアイレス』では、旅の途中にあるトニーとチェンが熱いハグを交わす場面があり、カーウァイ監督らしい一瞬のスローモーションきっかけで描かれる。それは一期一会の感覚を見事に視覚化したものだった。そんな記憶があったから、『青春18×2 君へと続く道』でも一期一会をモットーにした旅映画をものにできたのではないだろうか。