公開日 2020/12/21 19:06
変更日 2024/06/20 20:00
突然、失職したアラフォーの女性映画プロデューサーの幸せ探しの行方は?自身もホン・サンス監督のプロデューサーを務めた女性監督がユーモアとペーソスを絡めて描く話題作『チャンシルさんには福が多いね』をご紹介します。
このところ韓国では女性監督が映画界に新風を巻き起こしています。『はちどり』のキム・ボラ、『君の誕生日』のイ・ジョンオン、『82年生まれ、キム・ジヨン』のキム・ドヨン、そして本作のキム・チョヒ監督。ホン・サンス監督のプロデューサーとして長らく活動してきた彼女の長編監督デビュー作がこちらです。
キム・チョヒは23歳で映画監督になることを夢見ましたが、ホン・サンス監督の演出助手として映画の仕事を始め、その後、彼の元でプロデューサーとして7年間サポートしました。その間は「ホン・サンス作品以外の映画はほとんど頭のなかになかった」というほど仕事に没頭。自分よりもっと映画を上手に作れる人がいるのなら、喜んでその人のサポート役に徹して全力を尽くそうと考えていたそう。でも、監督になりたいという夢は消えず、「むしろその想いが強く切実になってきた」というわけで、3本の短編映画を経て、46歳の遅咲き長編デビューとなったのです。
自身の体験を投影した本作は、プロデューサーとしてずっと支えてきた映画監督が急死するところから始まります。 映画が好きでその業界に入り、一生懸命やってきた主人公チャンシルは40歳になり、いきなり仕事を失い、映画界での実績すら過小評価されます。しかも、恋人も夫もなく、家もなく、お金もなく、八方ふさがり。仕方なく不便な丘の上の家に間借りすることに…。
『チャンシルさんには福が多いね』というタイトルにそぐわないどん底展開。でも、監督が敬愛する小津安二郎の世界のように淡々としたなかに笑いのツボがあり、なぜか悲壮な感じにはならないのです。
引っ越しは映画のスタッフが手伝ってくれ、仲がよかった女優のソフィ宅で家政婦に。チャンシルが仲間たちに信頼され慕われていたことがよくわかります。
また、間借りした訳ありの大家のおばあさんとの交流もほのぼのさせます。ソフィのフランス語の家庭教師にときにときめいたり、ときに映画談義でバトルになることも。
さらに、香港のカリスマ俳優、レスリー・チャンを名乗る謎の男の存在が笑いを誘います。白のランニングシャツとボクサーパンツで登場し、意味深な言葉を投げかけるのです。
チャンシルを演じるカン・マルグムも30歳で演劇界に入るまで一般企業で働いていおり、その後、舞台でキャリアを積み、本作で『百想芸術大賞』の映画部門女性新人演技賞を受賞したこちらも遅咲き。マルグムは人生のエアポケットに落ちたヒロインを飄々とユーモラスに好演しています。