COLUMN コラム

訳ありの女友達の会話から透けて見える恋愛、結婚のその先を予感させる映画『逃げた女』

公開日 2021/05/19 23:11

変更日 2024/06/20 20:01

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2020年ベルリン映画祭銀熊賞(監督賞)に輝いたホン・サンス監督の『逃げた女』が6月11日から公開されます。ヒロインと女性の友人3人にスポットを当てた“あるある”と“違和感”が不思議に混じりあった本作の見どころをご紹介します。

ガミは、5年間の結婚生活で一度も離れたことのなかった夫の出張中に、ソウル郊外の3人の女友だちを訪ねる。

バツイチで面倒見のいい先輩ヨンスン、気楽な独身生活を謳歌する先輩スヨン、そして偶然再会した旧友ウジン。

行く先々で、「愛する人とは何があっても一緒にいるべき」という夫の言葉を執拗に繰り返すガミ。

穏やかで親密な会話の中に隠された女たちの本心と、それをかき乱す男たちの出現を通して、ガミの中で少しずつ何かが変わり始めていく。(公式サイトより)

韓国のエリック・ロメールと呼ばれるホン・サンス監督

国際的に評価されている韓国人監督といえば、タブーに切り込む社会性のあるストーリーや大胆な映像表現を駆使するハードなタイプが目立ちます。そんななかでホン・サンス監督は、シンプルで軽やかな作風でフランスの名匠エリック・ロメールに喩えられることも多いのです。スタジオを使わず自然光で少人数の男女の恋愛模様を会話を中心とした演出で描く作風で異彩を放っています。    

よく登場する男たちは女好きでグダグダで、かなりダメンズ。対する女性はそんな彼らを憎めずに惹かれて葛藤する。そんな他愛ない日常を手作り感覚で撮りながら独自の作風を練り上げ、世界的に評価されているのが凄い!

ホン・サンス監督は、1961年10年25日、ソウル生まれ。韓国中央大学で映画製作を学んだ後、1985年にカリフォルニア芸術工科大学で美術学士号、1989年にシカゴ芸術学院で美術修士号を取得。韓国に戻り、1996年に『豚が井戸に落ちた日』で長編監督デビューを果たします。

その後、第68回ロカルノ国際映画祭グランプリと主演男優賞を受賞した『正しい日 間違えた日』(15)、第67回ベルリン国際映画祭主演女優賞(銀熊賞)に輝いたキム・ミニ主演の『夜の浜辺でひとり』(17)などで世界的な評価が高まります。

本作『逃げた女』でも主演を務めたのはキム・ミニ。監督は自ら脚本・編集・音楽を手掛け、第70回ベルリン国際映画祭で自身初となる銀熊賞(監督賞)を受賞。ちなみに、2021年ベルリン国際映画祭では、最新作『INTRODUCTION』が銀熊賞(脚本賞)を受賞し、2 年連続して銀熊賞受賞の快挙を果たしているのです。

今回は男性が脇役、訳ありの女性たちが主役

これまで男女関係を描くことが多かった監督が、今回は女性にスポットを当て、女性監督が制作したといわれても納得してしまうほど女性同士のお喋りに違和感がない“あるある!”を描いているのです。

何度かこのサイトでも書かせていただきましたが、儒教の国、韓国ではまだまだ結婚して子供を産むのが女性の生き方として最高の幸せ、“王道”と言う考え方があります。ゆえに、社会現象となったドラマ『チャングム』主演のイ・ヨンエ、カンヌ映画祭主演女優賞受賞のチョン・ドヨン、『冬のソナタ』ヒロインのチェ・ジウ、3人の国民的女優はそれぞれ結婚して子供を設けています。しかし、現実には韓国の離婚率は高く、出生率は低空飛行を続けています。

本作に出てくる4人の女性たちは一般的に理想と言われる結婚から外れた存在です。しかし、葛藤がありながらも全員それなりに幸せの形を見つけているのです。

泥沼離婚した中年の先輩ヨンスンは郊外に家を購入。女性のルームメイトと畑で野菜作りなどを楽しみつつ、野良猫に餌をやって可愛がっています。

ピラティスのインストラクター兼振付家の先輩スヨンはシングル。母親との長すぎた同居を解消して、アーティストが集まるマンションでひとり暮らし。しっかり貯金もあり、同じマンションの建築家が意中の人。

同世代の旧友ウジンは、人気作家の妻。実はかつてガミはその夫と付き合っていた過去ありですが、ひと悶着を水に流してお互いの近況を語るうち、ウジンは夫に対するグチを漏らすのです…。

そんなそれぞれに事情がある女性に対して、ガミはいつも同じことを語ります。「結婚して5年、夫とは毎日一緒にいます。離れるのは今回が初めて。1日も離れた事はありません彼の希望なんです。愛する人とは一緒にいるべきだって」

それが本当だとすれば、少なからずモラハラの匂いが…⁈ いったい夫はどんな人物で、ふたりの関係はどうなっているのか? それがミステリーのように気になってしまうのですが、最後まで謎のまま。

ヒロインには監督のミューズでパートナーでもあるキム・ミニ。パク・チャヌク監督の『お嬢さん』(17)の主演でセンセーションを巻き起こしたコケティッシュな彼女が、黒のタートルネックのセーターをトレードマークのように着こなし、ほぼ聞き役に徹しています。

女同士のお喋りを邪魔するのは、いつも男性。野良猫のことで抗議に来る近所の男性だったり、ストーカーのようにつきまとう一夜限りの相手だったり…。

ドキュメンタリーのような引いた視点やときにいきなり入るズームの映像でホン・サンス監督らしさをだしながら、恋愛や結婚のリアルな本音を暴き出していきます。

見終わった後に、タイトル『逃げる女』の意味やそれぞれの女性たちの発言の背景を考えさせられる余韻の残る作品なのです。

ちなみに猫好きにはたまらない奇跡のワンシーンがあるのも見どころです。

『逃げた女』
2021年6月11日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺
他 全国順次公開

配給:ミモザフィルムズ

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