済州（チェジュ）島の闇と在日コリアンの母娘の絆を描く珠玉のドキュメンタリー『スープとイデオロギー』

それにしても、オモニ作るスープのおいしそうなこと。一羽丸ごとの鷄の中にどっさりニンニクを入れ高麗人参とナツメを合わせて何時間も煮込んだものをカオルさんに振る舞う。そしてその味を引き継ぐかのようにカオルさんが見よう見真似でスープを作り和やかに食卓を囲むのです。
前2作を観ているため、カオルさんが家族に加わったことが、オモニと監督の確執を溶かすためにも本当に良かったと身内のように安堵してしまいました。ちなみにカオルさんは本作のプロデューサーとしても尽力。監督を支えているのです。

　オモニは娘に封印していた過去を打ち明けたことで、心の重荷を下ろしたのか認知症が進み、ときに他界したアポジや息子たちも一緒に家族全員で暮らしているかのように思い込む姿が切ない…。

　本作はオモニの数奇な人生にカメラを向け、残虐な歴史的事実を掘り下げながら、大阪生まれ育ちの母娘と婿の会話はクスッとさせるところも多く、歴史の闇を告発するだけのドキュメンタリーとは一線を画す秀作です。

（C）PLACE TO BE, Yang Yonghi

監督・脚本・ナレーション：ヤン ヨンヒ
撮影監督：加藤孝信　
編集・プロデューサー：ベクホ・ジェイジェイ
音楽監督：チョ・ヨンウク
アニメーション原画：こしだミカ
アニメーション衣装デザイン：美馬佐安子　
エグゼクティブ・プロデューサー：荒井カオル
製作：PLACE TO BE　共同制作：navi on air　配給：東風

韓国・日本／2021／日本語・韓国語／カラー／DCP／118分

6/11㊏より[東京]ユーロスペース、ポレポレ東中野、[大阪]シネマート心斎橋、第七藝術劇場にて
ほか全国の映画館で順次公開！