COLUMN コラム

スター講師の意外な恋と受験競争を絡めた異色の韓国ドラマ『イルタ・スキャンダル〜恋は特訓コースで〜』

公開日 2023/04/12 20:00

変更日 2024/06/20 20:04

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Netflixシリーズ「イルタ・スキャンダル ~恋は特訓コースで~」独占配信中は、カリスマ講師と惣菜店の社長、正反対のふたりが不思議な縁で結ばれていくスイートな展開と、熾烈なお受験の実態を描く社会派路線の同時進行に沼落ちの人気作です。(ネタばれあり)

受験をテーマにした作品と言えば、韓国3大トップ大学を狙う富裕層のお受験を描き大ヒットした『SKYキャッスル〜上流階級の妻たち〜』(18)がありますが、あれは富裕層の一部のことで一般家庭では日本と同じ位のヒートアップ度だと思っていました。

だから本作を観て、あまりの受験競争と塾への依存度にかなりフィクションが入っているのではとリサーチしてみたら、現実でも日本をはるかに超えるレベルに驚愕でした。

毎年熾烈な受験競争が繰り広げられる韓国。その聖地として知られ名門塾がひしめき合うのが江南の大峙洞(テチドン)だ。なかでも「ザ・プライド学院」の人気ナンバー1講師のチェ・チヨル(チョン・ギョンホ)は、数学講師界のスター。

惣菜店を営むナム・ヘンソン(チョン・ドヨン)は、大学進学を控えチヨルの講義を受けたいという娘のため、受験競争に参戦することに。そこには想像以上に熾烈な争いが待ち受けていた……!

そんなとき、チヨルはヘンソンの人柄と弁当の美味しさに心を動かされ、しだいに惹かれていく。ところが、2人のロマンスはチヨルの名声に傷をつけることになるのだった。

Netflixシリーズ「イルタ・スキャンダル ~恋は特訓コースで~」独占配信中

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◇ソウルの中流家庭では高1で月70万ウォン (約7万円)の塾代がリアル

「韓国の教育省と統計庁が今年3月7日に発表した〈2022年私教育費調査結果〉によると、昨年、小・中・高の子供にかかった塾などの私教育費総額は前年比10.8%増の26兆ウォン(1ウォン=約0.1円)に達した。2007年に調査が始まって以来最大となり、1人当たりの月平均は50万ウォン、高校1年生は70万ウォンを超えた。3人世帯の中位所得(約420万ウォン)層の場合、収入の10~15%ほどを塾などに費やした計算になる」(KOREA WAVE JAPANより)
 
なんとほとんどの高校1年の子供を持つ中流家庭が、塾に月約7万円かけるという驚きの結果です。年間約84万円。受験までの3年間では252万円と高額です。

また、ベネッセ教育総合研究所の学習基本調査・国際6都市調査(2006年〜2007年)の学習塾・習い事の状況によるとソウルの教育熱は早くも小学生から始まっており、
「ソウルでは学院(ハゴン)とよばれる学習塾や習い事がとても盛んで、4人に3人の割合で学習塾に通い、その日数も週5日以上が73.0%にのぼる」
という統計から多くの小学生が毎日のように学習塾に通っていることがわかります。

「東京ではおよそ半数(51.6%)の小学生が学習塾に通う。週あたりの日数は2日(29.3%)、3日(34.2%)」とソウルの半分。
あちらの子供たちは気の毒なぐらい勉強しているのです。

◇経済効果1兆円のカリスマ講師と元ハンドボールの韓国代表選手の意外すぎるロマンス

そんな背景があるからこそ、母親たちも我が子のために戦闘体制になり、チヨルのようなスター講師の授業が争奪戦になるのはしごく当然だと思われます。
カリスマ数学講師チヨルは、その指導ノウハウで年平均1兆ウォン(約1040億円)の経済価値を生み出すと評されます。彼はいつも自分の10分は1700万ウォン(約176万円)、30分は5000万ウォン(約518万円)と時間を価値に換算して効率を最優先して暮らしているのです。

Netflixシリーズ「イルタ・スキャンダル ~恋は特訓コースで~」独占配信中

ラグジュアリーなマンションに暮らし、わかりやすく自信に満ちた指導でお金と人気を欲しいままにしている裏で、不眠症と摂食障害に悩まされ、無理して食べては吐き戻すの繰り返し。ところがヘンソンの惣菜屋のお弁当を食べたときは、なぜか美味しいと感じ完食。

かたや、元ハンドボールの国家代表選手で惣菜屋を切り盛りするいつも明るくまっすぐな性格のヘンソンですが、弟は自閉症スペクトラムという障がいを持っており、実は娘は実子ではなく姉が産んだ子供という秘密を抱えて3人で暮らしていました。

Netflixシリーズ「イルタ・スキャンダル ~恋は特訓コースで~」独占配信中

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母親の死後、自分を犠牲にして家族を守ってきたヘンソンと私生活を犠牲にしてお金と効率優先で仕事に没頭してきたチヨル。そんな真逆のふたりが、最悪の出会いから少しずつ互いの魅力に気づくのです。

ちなみに、互いの気持を確かめあってからのイチャイチャぶりが微笑ましい。とりわけヘンソンが「もうたまらない」と恥ずかしさで手の平で顔を隠す仕草さが可愛すぎます。

◇ 常に「早く」「もっと成功」の圧力が強い韓国社会への警告

本作はスター数学講師と年上の惣菜屋店主の恋と受験戦争の悲喜こもごもを描いていますが、根底にあるのは韓国社会の変化だと思われます。

ここ数年、BTSのジョングクの愛読書でもある『私は私のままで生きることにした』(著者キム・スヒョン)や東方神起のユンホが読んだことでも話題になった『あやうく一生懸命生きるところだった』(著者ハ・ワン)など、世間の価値観に従うのではなく自分らしく生きていこうという趣旨のエッセイがベストセラーになっています。

受験も就職も日本よりとんでもなく厳しい社会の中で生きづらさを感じた著者たちが「そんなに頑張らなくてもいい」「他人と比べるのではなく、いまの自分を認めよう」「無理してポジティブになる必要はない」という自分軸を大切にするメッセージを発信し共感する人が多かったのです。

本作のチヨルは教師になるため、1日1食の貧しい暮らしに耐えてスター講師になりました。韓国はいつも「早く、早く」「もっと、もっと」と常に早くもっと成功しなければという圧力が強い社会ですが、人から羨まれる成功を手にしたもののチヨルは不眠と摂食障害に悩まされ、幸せとは言いがたい状態でした。

Netflixシリーズ「イルタ・スキャンダル ~恋は特訓コースで~」独占配信中

そんなチヨルにとって思い出すと力が沸く記憶が、恩人の食堂。
「絶望の淵に立たされた時に、おばさんのご飯を思い出すと生きる意欲が湧いた。そのおかげで今の俺がある」

教員採用試験の前に『考試院』(学生向け共同宿泊施設)の近くの食堂のおばさんが、お金がないチヨルに追加でおかずを付けてくれたり、食券を無料でくれたりと何かと気にかけてくれたことにとても恩義を感じていたのです。そのおばさんとヘンソンと自分との不思議な縁に深い感銘を受けました。

「“1兆の男”と威張りましたが退屈な人生でした。着替えてベッドに行くと大切な何かを見失っている気がして眠れなかった。あなた(ヘンソン)が見失っていたものを見つけてくれました」のチヨルの台詞に心を掴まれます。

もちろん一流大学を卒業してお金も名誉もないよりはあったほうがいいでしょう。でも、本作のように「入試に失敗は許されない」と追い詰められ倫理観が歪む親や壊れていく子供たちも少なくないはず。

ヘンソンとチヨルの最後はほのぼのするロマンスも良きですが、本作は行き過ぎた受験競争やコスパ優先、成果主義に警告を鳴らすところも良きなのです。

作品情報
Netflixシリーズ「イルタ・スキャンダル ~恋は特訓コースで~」独占配信中(全16話)
2023年/韓国
原作・制作:ユ・ジェウォン、ヤン・ヒスン
出 演 :チョン・ドヨン、チョン・ギョンホ、イ・ボンリョン

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