公開日 2024/08/22 20:00
変更日 2024/08/22 20:00
INGLEWOOD, CALIFORNIA - DECEMBER 06: (EDITORIAL USE ONLY. NO COMMERCIAL USE.) (L-R) J-Hope, Jimin, and Jungkook of BTS perform onstage during 102.7 KIIS FM's Jingle Ball 2019 Presented by Capital One at the Forum on December 6, 2019 in Los Angeles, California. (Photo by Rich Fury/Getty Images for iHeartMedia)
入隊前のジョングクとジミンによる旅番組『Are You Sure?!』が、8月8日からディズニー+で配信されている。これがほんとずっと観ていられる。というか、ずっと観ていたい。冒頭すぐすでに満足感ある“グクミン”映像の食べ放題という感じだが、第3話からゲスト登場したVのメロウネスにも舌つづみ……。イケメン研究をライフワークとするコラムニスト・加賀谷健が解説する。
ジョングクとジミンが入隊前の思い出作りを記録した『Are You Sure?!』は、結構バタバタと幕を開ける。日本の旅番組のように出演者の前口上やナレーションがない分、いいテンポ感なのだ。2023年7月、アメリカのニュース番組『グッドモーニング・アメリカ』が主催する『Summer Concert Series』にグクがトップバッターで出演した後、宿泊先のホテルからさくっと車に乗り込み、第1話の舞台ニューヨークへ繰り出す。
旅番組の醍醐味とは、観光地や名所の風景を楽しむ映像体験だけではない。出演者が魅力的な人物ならなおさらのこと、彼らが異国の地で自らを投げ出し、外気と密にふれ合い、接触する有機的な空気感。それを画面内に取り込めるかどうかに全てはかかっている。そのためには道化役でも何でも引き受けようとするジミンの振る舞いが頼もしい。
運転手はグク。助手席のジミンはひたすら自由におどけてみせる。その様子を見たグクがどんな映像になるのだろうと若干不安気味になるのもなんのその。さすがジミンちゃん。2人だけの車内を写したプライベートなカメラ前でシャドーボクシングを始めるなど、親密な動画のジャブ連打に視聴者はただただ身を任せて打たれる心地よさがある。
まずは腹ごしらえだと到着したのは、ハンバーガー店。アメリカといえばハンバーガーだ。こういうときはベタなチョイスの方がいい。たとえばニューオーリンズのナマズバーガーなど、アメリカ全土には各地にご当地ソウルバーガー店が点在する。ナット・キング・コールが名付けたキャデラック・バーガーからブルックリン発祥の極小バーガーで有名なチェーン店までさまざまにかぶりつく。
でもここは自由なグクのチョイス。東海岸なのにカリフォルニア・バーガー。それとステーキ・サンド。韓国でも食べたいほど美味しいとお気に入り。ジミンはゴルゴンゾーラが鼻をつくブルーチーズ・バーガーを頼むが、あまり口に合わなかった様子。グクのサンドをわけてもらう。ここまで本編は15分ほど。もうお腹いっぱいというくらい満足な“グクミン”映像を堪能できてしまう。
第2話も冒頭からまずグクがバイクを走らせ、自由気ままな旅行映像スタイルはゆるがない。森の中のハイキングでは、グクの後方を歩くジミンがやたら蚊にさされる。オデコやら頬やらいろんなところ。その場のムードとテンションを大切にするジミンはそんなときでも音楽をかけて盛り上げる。選曲は、グクの全米チャート(Hot100)登頂ナンバー「Seven(feat.Latto)」。グクに先駆けて「Like Crazy」で登頂に成功していたジミンが、森の中で響くバックトラックとグクの歌声に合わせてカメラを向ける。即興的なムーヴをおさめる画面のフレームには、「‘Seven’ Official MV – HIKING ver . (feat.Jimin)」とキャプションがでる。ほんと単純にハイキングを楽しんでいるものだから、2人が世界的なグループBTSのメンバーであることをつい忘れてしまいそうになるが、やっぱり泣く子も黙るスーパースターに違いはない。
ニューヨーク篇では、ジミンが断続的な腹痛に悩まされる。せっかくの旅なのに「これでいいの?!(Are You Sure?!)」と思わず船上で叫ぶ。
最近はどうも雨男になってしまったのかもしれないとぼやくグクが、雨が降る空を見て同じフレーズを口にする。天候があまり味方をしてくれないぐだぐだな状況でも、昼の買い出しに行けば雨の中、グクはスーパーマーケットの駐車場でステップを踏む軽妙さだ。グクミンが遭遇する状況に合わせて発せられる「これでいいの?!」は、本作のタイトルとしてあまりに似つかわしい。
ニューヨーク滞在ラストの宿泊地で調理する食材を買いに向かう車内で、あれだけふざけあってばかりいた2人がちょっと真面目にそれぞれの音楽へのスタンスの話をする。「僕は人に語るような話がない」と言うグクは、提供された楽曲をいかに自分のものにするのかを極めたい。作曲が楽しいジミンは自作によって伝えることに比重があり、「僕は両方やりたい」とフランクに意見交換する。普通に観ていたら聞き逃してしまうくらいの会話だが、これはアーティストの本質的資質を簡潔に開示している。同じスーパースターでも、常に外に開かれていたいグクと内省的な世界観も同時に大切にしたいジミン。両者のアーティスト性に共通するものを考えたとき、マイケル・ジャクソンとアッシャーという固有名詞があるが、グクは1stアルバム『GOLDEN』のタイトル曲「Standing Next to You」を“Usher Remix”として2023年12月15日に公開したミュージックビデオでアッシャーを招聘し、マイケル、アッシャーに続く第3のキング・オブ・ポップを継承した。マイケルとアッシャーに深いリスペクトを表明するジミンはキングたちのエッセンスを内面化したスタイルでBTSのR&Bマナーをグク以上に底上げしてきた。R&Bつながりならば、誰よりも内省的な音楽世界を構築し、自由に漂うもうひとりのメンバーをそろそろ召還してもいいかもしれない。