ジョングクの咀嚼音が美しい！“黄金の瞬間”を追ったドキュメンタリー映画『JUNG KOOK : I AM STILL』の注目ポイントを独自解説

「僕は人に語るような話がない」

「グクミン」の愛称で親しまれているBTSのジョングクとジミンによる２人旅を記録した番組『Are You Sure?!』第2話で、ニューヨーク滞在最終日の買い出しへ向かう道中、印象的な場面がある。うっすら青みがかる夜をさわやかに走り抜ける車内、話題はそれぞれの音楽観について。自作によって自分の考えをアウトプットする作曲が楽しいと話すジミンに対して、グクは「僕は人に語るような話がない」と言う。

グクはあくまで提供曲をどれだけ自分色に染めるかについて話しているが、こんなに謙虚な態度をあっけらかんと言ってしまえるスーパースターがいるんだなと思った。このグクの発言はかなりシンプルで的確な自己分析にもなっている。つまり、グクは「ジョングク」という商品価値をよく理解している。ひとりの表現者でありながら、単に自分のやりたい音楽云々ではなく、あくまで客観的に外側から見てあるべきアーティスト像、あるいはファンがそこに求めるものを反映してこそのスターの姿。その姿をより理想に近づけるべく活動を続け、常に模索と実践を繰り返すのは、スーパースターの宿命ともいえる。

グクは現に初ソロシングル「Seven（feat.Latto）」で全米シングルチャート(HOT100)首位をさらっと達成している。説得力が違う。「僕は人に語るような話がない」に込められた率直な謙遜は、さらっと偉業をやってのけるグクの発言としてあまりに強烈だ。バラエティーノリ全開の旅番組のほんの一瞬の場面で深淵な世界をのぞかせてしまう。そういうさらっと感がグクらしいのだが、初シングルのレコーディングから物語が始まるドキュメンタリー映画『JUNG KOOK : I AM STILL』（以下『I AM STILL』）が、“黄金の瞬間”の数々を捉えた格好の教材になっている。

グクによる咀嚼音が美しい

「Seven（feat.Latto）」のレコーディングが行われたのは、2023年4月9日。場所はロサンゼルスのスタジオ。『I AM STILL』のカメラが捉えるグクは、プロデューサーであるアンドリュー・ワットをがっかりさせないかと不安げだ。対するワットのテンションはかなり高め。グルーヴィーなバックトラックに合わせて、ひとりノリノリで踊りまくる。傍らにいるグクは緊張している。この対比が場面の緊張感として素晴らしい。

インタビューに答えるワットは、スターとはおごらない存在だと明言する。彼は「僕は人に語る話がない」と言うグクの才能と資質を見抜いている。本作冒頭では、同様に車内場面があり、後部座席のグクがARMYに恥ずかしいところは見せられないのだと語っている。生身の人間であるからにはナーバスになることはあるが、ジョングクのスター性はゆるがない。 でも人間味ということでいうのなら、本作の中でぼくがどうしても気になることがある。それは、食べること。ジョングクと食べることの組み合わせ以上に、見る者の心をとろかすものはないからだ。

冒頭の車内場面では、たぶん普通にガムを噛んでいるんだろうけど、でもそれにしてはボリボリ、ポリポリ時折聞こえる。ひとつのガムですら魅力的な咀嚼音にしてしまう人。ニューヨークでは合間に、まだ残ってる？ とスタッフに聞いて、ハンバーガーにかぶりつく。ハンバーガーとグクの組み合わせも格別だ。『Are You Sure?!』ではニューヨーク編序盤で、ジミンとハンバーガー屋で食事する。東海岸だというのにカリフォルニア・バーガーを注文してご満悦。サイドメニュー的に注文したステーキ・サンドイッチもペロリ。2023年11月10日にタイムズスクエアのTSXステージで行われたゲリラ公演前には、昼までたっぷり12時間寝たグクが、起き抜けにタコライス（？）とトルティーヤ・チップスを食べる。『Are You Sure?!』でもそうだったが、グクによるチップスの咀嚼音がたまならなく美しい。

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