COLUMN コラム

11年ぶりの台湾ドラマ出演から名バディ共演作まで“豊穣”な連想で読み解くディーン・フジオカ作品

公開日 2024/07/29 20:00

変更日 2024/08/09 11:22

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ディーン・フジオカが出演する作品間を自由に連想し、語ることには大きな喜びがある。11年ぶりに出演した台湾ドラマ『次の被害者 Season2』(Netflixで6月21日から配信)が配信されたかと思えば、8月23日(金)からは出演最新作の映画『ラストマイル』が全国で公開される。過去と現在(未来)をつなぎながら、新作公開の都度、“豊穣”な読み解きが可能なディーン作品について、コラムニスト・加賀谷健が自由な連想で解説する。

連想という名の自由を手放しに許してくれる存在

 俳優についてコラムを書いて、俳優本人がそれを公然と読んでくれることはめずらしいことだけれど、ディーン・フジオカさんに限っては何とも気前よく、X上で感謝ポストを投稿してくれた。控えめに言って素直に嬉しい反面、ディーンさん本人が自分の文章を読んでくれた事実を知った途端に、気恥ずかしくもなる。

 何せぼくのコラムは、いつでも好き勝手な妄想と連想の勢い任せに書いているのだから。敬愛する俳優だとなおさらのこと。妄想に抑制がきかなくなり、連想は延々続く。それでも読者諸賢からは、“愛のあるコラム”と評してもらえるのはありがたい。でも書いてるとき、意識的に愛を注入してるわけじゃない。対象となる俳優なり、作品なりに(限定的だが)徹底的に向き合った結果として、コラム形式で愛のかたちが形成されているだけどぼくは認識している。

 その意味では、向き合えば向き合っただけ、愛と妄想の化学反応が生じ、連想という名の自由(解釈)を手放しに許してくれる存在が、ディーン・フジオカということになる。たとえ、突飛な大連想でさえ、ディーン・フジオカという小宇宙の最中では、些事(星くずの一つひとつ)に過ぎないのだから。

“ディーン・リアリティー”を体感する映像体験

 それはひとつの小宇宙であると同時に世界観だ。あらゆる出演作品を通じて、ぼくらは、それぞれのキャラクターを演じるディーン・フジオカのパースペクティヴからすべての場面を定点観測することになる。2022年からスタートした『パンドラの果実〜化学犯罪捜査ファイル〜』シリーズは、すごく象徴的で、最適な案内作品だ。

 ディーン扮する警視正・小比類巻祐一は、科学の進歩に異常な執着がある人物。刑事局長・島崎博也(板尾創路)に化学犯罪対策室の設置を許され、室長となる。捜査一課から配属されたのは、現場に詳しいベテラン刑事・長谷部勉(ユースケ・サンタマリア)。アドバイザーとしてヘッドハンティングしたのが、科学者・最上友紀子(岸井ゆきの)。科学界を離れ、ひっそり暮らす最上に会いに行く『Season1』(日本テレビ、2022年)第1話場面。山に分け入り、登る途中、小比類巻がイノシシ用のトラップに引っかかる。最上が仕掛けたものだが、小比類巻は、あっという間に宙吊り状態になる。するとカメラが自らの意思で判断したかのように、何ともオートマティックな動きで、逆さまになっている小比類巻の目線までクルッと回る。ここでメインタイトル(!)。これこそ、鮮やかなディーン的世界観への招待。ここから視聴者は、逆さまに反転していたはずの画面を正常な観点(パースペクティヴ)としてドラマの続きを見ることになる。さりげない冒頭場面だが、少女アリスが鏡の中の世界に入り込む『鏡の国のアリス』を踏襲したかのような新たな没入体験だと思う。不可解で不思議な科学犯罪世界という、もうひとつの現実である“ディーン・リアリティー”を体感する映像体験だとも言える。

 同シリーズをそうした映像体験の“枠内”で語ると、色々面白いものが見つかる。例えば、第2話のラスト、小比類巻の広い家に住み着いた最上と毎日のようにシャンパンかワインを開けるが、その晩は赤ワインだったこと。赤ワインが入ったグラスをテーブルに置いて、小比類巻は読書していた。画面上で彼がグラスに口をつけなくても、深い紫色が自然と映える。ディーンさんを前にすると、ワインではなく葡萄酒と表記したくなる。それだけ絵画的にフレーミング(枠内)されている。そう、絵画。小比類巻が最上との会話の中でその後、1920年代のパリで活躍した女性画家マリー・ローランサンの名前を口にするのは、もちろんほんの偶然。でもディーンさんがいる画面が途端にタブローみたいに見えてくるものだから、同じ画面に写る事物からどんどん連想が豊かにわいてくる。ワインの原料となる葡萄は、西洋絵画の世界では、豊穣を意味する。これがディーン・リアリティーを体感する映像体験の豊かな連想の一例だ。

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加賀谷健