公開日 2025/04/13 12:00
変更日 2025/04/13 12:00
BUSAN, SOUTH KOREA - OCTOBER 02: Yutaka Matsushige attends the opening ceremony of the 29th Busan International Film Festival on October 02, 2024 in Busan, South Korea. (Photo by Woohae Cho/Getty Images)
3月18日に公開されたBTS公開YouTubeチャンネル「BANTANGTV」に、松重豊がゲスト登場した。主演と監督・脚本を兼任した『劇映画 孤独のグルメ』が、釜山国際映画祭でプレミア上映されたことも話題を集めたが、JINとの共演は、ひたすら愛おしいものだった。コラムニスト・加賀谷健が、松重豊とBTSのつながりを解説する。
松重豊主演の大ヒット、長期ドラマシリーズ『孤独のグルメ』(テレビ東京系)Season1(2012)第1話で、松重演じる主人公・井之頭五郎が最初に目にした食べ物は何だったか? 同話の舞台は門前仲町だった。「江東区門前仲町のやきとりと焼きめし」とタイトルがあるから、そこは手堅く焼き鳥かと思えば、違う。輸入業を営む五郎が商談先へ向かう途中、路地でおばあさんがみかんを散乱させる。拾うのを手伝う五郎が最初に目にして、触れたのが、このみかんである。
などという『孤独のグルメ』トリビアを知る知らないにかかわらず、シリーズ劇場版『劇映画 孤独のグルメ』(2025)が、興行収入10億円を超えるスマッシュヒットを記録した。監督・脚本を兼務した松重は、これがヒットしなければ引退するくらいの覚悟で演出にあたった。恐怖の元力士を怪演した映画デビュー作『地獄の警備員』(1992)の松重豊をこよなく愛するぼくからすると、何とも心地よくのんびりした作風の『孤独のグルメ』によって、松重が中年から初老のスター俳優になるとは思わなかった。
『劇映画 孤独のグルメ』が出品された〈第29回釜山国際映画祭〉では、もぐもぐしながら、レッドカーペットを歩いた松重の話題にほっこり。俳優としても監督としても韓国の映画ファンに歓待されることが誇らしい。訪韓中の松重は、韓国のテレビ番組に出演したり、あるいはとびきりサプライズ性がある世界的大スターとの共演を果たした。もったいぶらずに言おう。BTSの最年長メンバーJINだ。
BTSメンバーがバラエティー豊かな企画に挑戦する公式YouTubeチャンネル「BANTANGTV」で、JINは「Run Jin」というタイトルの番組を担当している。そのエピソード26に松重豊がゲスト出演したのである。番組冒頭、JINと日韓タレントとして知られるカンナムが軽くトークして、すぐに松重が呼び込まれる。
韓国のバラエティー番組は、とにかくテンポがいい。コーナーからコーナーへ矢継ぎ早、その間に出演者同士のトークを連打する。目が丸くなるくらいかしましいテンポ感だけれど、BTSメンバー相手でも松重は全く通常運転という感じで、不思議と心地よい空気を醸成する。旨いものを前にテンションが上がる五郎には「いいぞいいぞ」という口癖があるが、このスリーショットトークは、ほんとうに「いいぞいいぞ、ずっと見ていられる」状態。
サウナ施設を舞台に、豪華韓国グルメをかけたゲームに挑戦する。自分のことは「ユウちゃん」と呼んでくれという松重に対して、JINがしきりに「可愛いですねぇ」と日本語でコメントするやり取りがたまらない。愛おしい。尊い。あぁため息……。でもこの番組の白眉は序盤にある。足湯につかる3人が日本の温泉について話すくだり。カンナムと松重が日本語でやり取りする中で出た「箱根」というワードを拾うJIN。箱根は行ったことがあるかもしれない。そこでワサビを買った。と言うのだが、ワサビならそれは伊豆だと松重が訂正。ワサビの話題から『孤独のグルメ』に関連する豊かな広がりがある。
コラムニスト / アジア映画配給・宣伝プロデューサー / クラシック音楽監修。 クラシック音楽を専門とする音楽プロダクションで、企画・プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメン研究」をテーマに、“イケメン・サーチャー”として、コラムを執筆。 女子SPA!「私的イケメン俳優を求めて」連載、リアルサウンド等に寄稿の他、CMやイベント、映画のクラシック音楽監修、解説番組出演、映像制作、 テレビドラマ脚本のプロットライターなど。2025年から、アジア映画の配給と宣伝プロデュースを手がけている。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。