韓国映画『ただ君だけ』リメイクの『君の瞳が問いかけている』が伝える“ストレート”な感動

■宿命の二人の出逢い

(C)2020「きみの瞳が問いかけている」製作委員会

目指すべき道を外れ、悪の道に手を染めた篠崎塁（横浜流星）と事故によって視力を失ってしまった柏木明香里（吉高由里子）は、どちらも思い出したくない過去を持つ。出逢うべくして出逢った“宿命”の二人は、お互いにとって運命の相手であるこがあまりにも過酷すぎる。しかし共有すべき宿命にある過去の出来事とは裏腹に、二人のその出逢いは、唐突でありがらも和やかに果たされる。その瞬間を描く本作『君の瞳が問いかけている』の三木孝浩監督が何とも艶やかなロマンスとして描こうとするあたりにその才気をやはり感じる。

ボクシングの世界を離れ、日雇いアルバイト生活を送っている塁は、寂れた駐車場の管理人職を得て、一応寝泊まりが出来る住居スペースもあてがわれる。そこへある日やって来た明香里がいなり寿司を差し入れにくるのだが、視力のない彼女は、塁を「おじさん」と呼び、どうやら前任者と勘違いしているらしい。それでも塁は構わずに差し入れを受け取る。明香里は、毎週放送を楽しみにしているテレビドラマを見にきていた。塁が別人だと気づき、帰ろうとする明香里を呼び止め、ドラマをとりあず一緒に鑑賞する。明香里が20代そこそこの塁を「おじさん」と決めつけて呼ぶのが可笑しい。

(C)2020「きみの瞳が問いかけている」製作委員会

そんなほっこり和やかな二人の出逢い。コールセンターに勤務する明香里は、毎日対応に追われ、その日も酷いクレーマーに電話を途中で切られたりと苦戦していた。ちょうど塁も何やら誰かに陳謝するが、それも向こうから切られてしまう。電話ボックスに漂う塁の徒労感。現実世界から拒絶されてしまっているかのような塁と明香里だが、テレビドラマを鑑賞する管理人室では互いの呼吸を静かに感じながら、彼らだけの濃密な空間を共有する関係性を築いて、徐々に距離を縮めていく。このあたりの空気感、やはり三木監督ならではの繊細極まりない浮遊感が画面上に流れている。ある日、駐車場の入口で足をねん挫した明香里を家まで送ることになり、途中でおぶろうとする塁に明香里が「後悔するよ」と言う時、その一言にかすかなまがまがしさを感じたのも束の間、明香里をおぶる塁の前方に相当な段数の階段がそびえる。明香里はだから言ったのにという雰囲気だが、元ボクサーである塁にとってそれは闘士が燃える絶好の駆動装置である。背中に重さを感じながらも駆け上がり、さらに明香里の家の階段をも上り切る。へとへとになりながらも、塁はにわかに爽快感を覚える。