COLUMN コラム

韓国映画『ただ君だけ』リメイクの『君の瞳が問いかけている』が伝える“ストレート”な感動

公開日 2021/07/16 20:13

変更日 2024/06/20 14:32

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チャーリー・チャップリンがひとりの可憐な盲目女性のために拳闘試合に出場する名作『街の灯』(1931)をモティーフに製作された韓国映画『ただ君だけ』(2011)。それを横浜流星と吉高由里子W主演でリメイクしたのが『君の瞳が問いかけている』(2020)だ。ボクシング映画としての美しさを誇る本作の見どころを解説する。

(C)2020「きみの瞳が問いかけている」製作委員会

正統なボクシング映画の系譜に連なる本作の試合場面は当然見応えがある。試合場面を演出する三木監督もまた自然と映像に力が入り、矢吹ジョーさながらによろめきながら一転してシャープな一撃を食らわす塁の動きに呼吸を合わせる。あるいは、明香里の職場の上司である尾崎隆文(野間口徹)が立場を利用して関係を迫ろうとしもみ合いになり、そこへタイミングよく駆けつけた塁が尾崎を返り討ちにする鬼気迫る瞬間。普段は生気を抜き取られたかのように物静かな塁が闘士を噴出させ、一瞬のうちに鬼面に転ずる二面性あるリアルな演技の迫力には驚かされる。だが、本作最大の見せ場はやはりロマンスにこそある。

明香里との関係性が深まるにつれて過去の自分へ向き合うようになり、塁は日常的に笑顔でいることが多くなる。自ら縁を切ってしまったボクシングジムの門を再び叩き、ボクサーとしてもまた新しいキャリアをスタートさせようとする。さらには同棲する明香里の部屋に日射しが入り込むように部屋の改装にまで取り掛かる。この矢継ぎ早な塁の変化が本作にあまりにも美しい場面をもたらす。「彼女の瞳(め)が問いかけている。僕は応えなければ」、陽光に包まれるベッドサイドに座る明香里がシェイクスピアの戯曲『ロミオとジュリエット』でジュリエットがいるバルコニーの下からロミオが吐露するこの名台詞を口にする。その意味を問われた彼女は、そっと塁の両頬に優しく触れる。塁の頭上に陽光がちょうど重なる。そして二人はお互いの目と目を見つめ合い続ける……。

ところが「視線」はイメージにすぎない。向かい合った誰かと誰かの目と目との間に結ばれているとイメージされるその線の、あるかないかの現実としてカメラはただ見つめ合う者たちの隣にそっと置かれるばかりなのだ。そのあるかないかの現実にカタチある輪郭をあたえる方法はただひとつ、恋人たちの唇と唇が重なり合う瞬間においてしかない。塁と明香里の息詰まるような見つめ合いの時間がそうしてやっと至高の映画的瞬間を迎えるにいたる。これは映画表現にしか成せない技である。三木監督がその事実に忠実であることで、この最大の見せ場を演出するのにどれほど苦心したことだろうか。だが三木監督は正直者でもある。唇と唇を重ね合わせ続ける塁と明香里を演じる横浜流星と吉高由里子の現実の眩さに目をつむるしかなく、カメラを一度引いて画角調整することで照れ隠ししているように思えてならなかった。

ラブロマンス 韓国映画

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WRITER INFOライター情報

加賀谷健