公開日 2024/12/23 20:00
変更日 2024/12/23 20:00
SEOUL, SOUTH KOREA - MARCH 30: V of South Korean boy band BTS is seen at the 'CELINE' pop-up store opening at The Hyundai on March 30, 2023 in Seoul, South Korea. (Photo by Han Myung-Gu/WireImage)
BTS Vが、今年はふたつのウィンターソングをリリースした。ひとつは、パク・ヒョシンとのデュエット曲「Winter Ahead(with PARK HYO SHIN)」(11月29日リリース)。もうひとつもデュエット曲としたクリスマスナンバー「White Christmas(with V of BTS)」(12月6日リリース)。いずれもV特有の音作りが工夫され、この冬は彼の歌声で温まれそうである。イケメン研究をライフワークとするコラムニスト・加賀谷健が、Vによる“冬の兄弟曲”を解説する。
ジャズキタリストの大友良英が、解説トークを交えながらジャズナンバーを紹介する『ジャズ・トゥナイト』(NHK FM)12月7日放送回の特集が「雪ジャズ」だった。1曲目にかかったのが、アーヴィング・バーリン作曲による「I’ve Got My Love To Keep Me Warm」をエラ・フィッツジェラルドとルイ・アームストロングがデュエットするバージョン。トラックタイトルが示すように、寒い冬でもじんわり心温まる歌声である。
雪ジャズなんてジャンルがあるわけではないけれどと大友が前置きしていたが、でもたしかに特集が組まれるほど、雪とジャズの間には暖をとるためのきらめきと工夫があるように思う。歴史的名盤としての呼び声あるEP『Layover』で、チェット・ベイカーらジャズレジェンドたちへのリスペクトと影響を表明したBTS Vもまた現行世代の心温まる歌声の持ち主である。世界的ポップスグループのボーカリストでありながら、その背景には多様なジャンルの音楽的感性があるVは、ジャズ的であるばかりではなく、オペラ的でもある。
韓国出身の世界的オペラ歌手スミ・ジョーが一目置く才能なのだ。Vの歌声と音域への称賛をおしまないスミジョーは2020年、Vの誕生日に公式YouTubeチャンネル「Sumi Jo Official」で「Snow Flower」をカバーしている。同曲は、Vのディープな低音が特に温かさを感じさせるクリスマスナンバーだが、彼が「Christmas」の「Chri」まで発音しただけで、リスナーの心にはとびきりマジカルなクリスマスの景色が浮かんでくる。
こうしたクリスマスナンバーにおけるVの即効性的なボーカルスタイルが、2024年の冬にも存分に発揮される。アーヴィング・バーリン作曲、ビング・クロスビーが歌うクリスマスソングの大定番ナンバーを今年のホリデーソングとしたのである。Vが歌いだし、「Where the tree tops glisten」でビング・クロスビーの歌唱パートになる。クロスビーのマチュアな歌声に声を重ねるVが「listen」でメロウにハモる。誰もが知るクリスマスのスタンダードナンバーをVなりに解釈したメロウネスに心は温まり、とろける。
Vは2022年にもクロスビーの「It’s Been a Long,Long Time」をカバーしている。この曲はクロスビーにとっても1945年に発表されたカバー曲だが、Vは、レス・ポールのギター伴奏にのるクロスビーのささやくようなビブラートに寄せて、美しいフレージングを粒ださせている。繊細なタッチでクロスビーを再解釈してアプローチするVの工夫がここでもこらされている。
ぼくのような映画畑出身の人間からすると、ビング・クロスビーは映画俳優としてのイメージがある。クロスビーが新任の神父役を演じてアカデミー主演男優賞を受賞した『我が道を往く』(1944年)は、その歌声によって自然と心温まる作風になっている。冒頭から友人の神父と出身校の校歌を大合唱したり、シューベルトの「アヴェ・マリア」を伴奏しながら歌うクロスビーならではの歌唱場面が描かれる。冬の音楽も映画もこの人ありというクロスビー存在感を「White Christmas(with V of BTS)」によって、Vが現代に伝えているように思う。
コラムニスト / アジア映画配給・宣伝プロデューサー / クラシック音楽監修。 クラシック音楽を専門とする音楽プロダクションで、企画・プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメン研究」をテーマに、“イケメン・サーチャー”として、コラムを執筆。 女子SPA!「私的イケメン俳優を求めて」連載、リアルサウンド等に寄稿の他、CMやイベント、映画のクラシック音楽監修、解説番組出演、映像制作、 テレビドラマ脚本のプロットライターなど。2025年から、アジア映画の配給と宣伝プロデュースを手がけている。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。