公開日 2023/03/22 20:30
変更日 2024/08/23 19:57
2月10日に一挙配信され世界総合TOP10ランキング入り、日本では堂々1位に輝いたNetflixシリーズ『その恋、断固お断りします』が独占配信中。フェミニズムをポップに絡め、BLも匂わせた斬新ラブコメの見どころを解説します。(ネタバレあり)
ケンカが強く、男性には負けたくない弁護士ヨ・ミラン(キム・オクビン)は、ワンナイト・ラブも楽しむ自由人でかつ、悪い男には鉄拳の制裁を加えるスーパーウーマン。
かたや、品行方正な”メロ職人‘’と呼ばれる人気俳優ナム・ガンホ(ユ・テオ)は、実は過去の体験から女性不信で差別発言を漏らす女嫌い。
たまたまガンホの発言を聞いたミランは怒り、ガンホをマークする。
事務所の共同体制を解消することになったミランはCAの親友シン・ナウン(コ・ウォニ)とルームシェアするマンションの高額な家賃を払うために芸能人を顧客とするギルム法律事務所に就職。
そこでミランはガンホと再会し、ガンホのゲイ疑惑を晴らすために、事務所代表のト・ウォンジュン(キム・ジフン)に頼まれて契約恋愛に応じる。
女性に触れると発作が出る秘密を抱えていたガンホだが、しだいにこれまで出会った女性との誰とも違うミランのことが気になっていく。
Netflixシリーズ「その恋、断固お断りします」独占配信中
人気スターと一般女性のロマンスもエンタメ業界の裏話も、かつて観た設定。加えて出会いの印象が最悪からの契約恋愛&結婚に至っては、もはや「韓ドラあるある」すぎる王道です。
でも、本作は弁護士ミランは男嫌い、スター俳優ガンホは女性に不信感を持っているところが新規軸。
そんなふたりが反発しながら惹かれていく過程がかなり突き抜けた展開で目が離せません。
Netflixシリーズ「その恋、断固お断りします」独占配信中
加えて、サブカップルであるミランの親友ナウンと事務所代表のウォンジュの焦ったい恋模様も微笑ましい。
Netflixシリーズ「その恋、断固お断りします」独占配信中
また、ミランが所属する弁護士事務所は芸能人を顧客としており、ガンホは顧客。なので芸能人にまつわる依頼や事件がラブコメを刺激的に盛り上げるストーリーラインになっているのです。
韓国ドラマのヒロイン像を大きく変化させたのは2005年に大ブレイクした『私の名前はキム・サムスン』といえるでしょう。それまではスリム美人で健気で控えめな女性が代表格でしたが、キム・ヨナ演じるサムスンはふっくらタイプで言いたいことはズバズバ発言。しかもヒョンビン演じる年下の御曹司と恋するという当時としては画期的な設定で女性たちを夢中にさせました。
それから17年後、大胆な設定で新たなヒロイン像を生み出したのが『その恋、断固お断りします』です。
ヒロインのミランは弁護士という知的な職業につきながら、とにかくケンカに強い!いろんな格闘技、武術を習得しており、女を見下したり暴力やセクハラをはらたくクズ男を叩きのめします。ドラマのなかでミランを称して、「ミッシェル・ヨーか?」の台詞があるぐらいです。
Netflixシリーズ「その恋、断固お断りします」独占配信中
恋愛に関しても自由に楽しむ。待つ女ではなく主導権を握るタイプ。サンプリングするようにいろんな男性と付き合います。
「女らしさ」や「女性だから」の常識を押し付けられることになにかと反発します。
その背景には、父親が典型的な男尊女卑でとんでもない亭主関白。母親がずっと虐げられてきた家庭で育ったミランは、「女はこうあるべき」という常識を破って、弁護士になり武術をモノにし文武両道を極めたのです。
だから男尊女卑的な相手の言動に対してぶった斬る発言をし、キッパリした態度で批判します。その言動は女性視聴者をスカッとさせます。
実は、韓国では2016年5月に発生した「江南駅通り魔事件」(トイレで女性が男性に殺害された)をきっかけに女性たちが声を上げ、それが世界的な#MeTooの流れを受けて、ジェンダー平等を求める動きやフェミニズム運動が盛んになりました。
なんと20代女性の41.7%は「自分はフェミニストである」と回答しているのです。(時事週刊誌『時事IN』の2021年7月30日から8月2日まで、韓国の全国満18歳以上の男女2,490名を対象に実施したWeb調査より)これはたぶん日本で調査したらもっと低い数字だと思われます。
そんな世情が背景にあり本作が誕生し、韓国で共感を呼んだに違いありません。
Netflixシリーズ「その恋、断固お断りします」独占配信中
日常的にあるジェンダーバイアスや、家父長制による男尊女卑をエピソードに加えて批判し、いわゆる「女らしい」女性像とは逆の魅力的なミランに好意を持つガンホを描き、互いに尊敬し合える対等な男女関係を成立させたところが新しい。
ガンホは「僕が知る女はあざとくて自分勝手で計算高かったが、君は裏表がなくて愚かで無鉄砲だ。つまり勇敢」とミランを評し、惹かれていきます。
Netflixシリーズ「その恋、断固お断りします」独占配信中
8話で父親がミランのことを「すごく自分勝手な子」と貶めたときのガンホの反論、
「僕は尊敬しています。ミランさんから多くを学んでます。正義感があって勇敢です。いいことをしても大した事なく振る舞います。ミランさんを知ったら好きにならずにいられません。僕が出会った中で、1番かっこいい女性です」
に、全女性が感涙せずにはいられません。
Netflixシリーズ「その恋、断固お断りします」独占配信中
ガンホを演じるユ・テオはキリッとした正統派のイケメン。彼の育ての親である事務所の代表であるウォンジュン(キム・ジフン)は長髪でモデル風ルックス。元は俳優でしたが裏方に転向しました。
ガンホはウォンジュンを全面的に信頼して、プライベートなことも打ち明ける仲。
Netflixシリーズ「その恋、断固お断りします」独占配信中
そんなふたりには秘密が。“メロ職人”でありながら、女性へのトラウマを抱えるガンホは、女優とのラブシーンが苦痛で精神安定剤を飲むほど。そこで事務所の代表であるウォンジュン(キム・ジフン)を相手にラブシーンの練習を繰り返すのですが、このシーンがまんま理想のカップリングのボーイズラブで、『その恋、断固お断りします』のタイトルは「ふたりが恋人同士だからか!」と早合点したぐらいでした。
ちなみに、恋愛もので大ブレイクしたガンホはアクションノワール映画への出演を切望し、なんとか願いを叶えてやりたいとウォンジュンは奔走するのですが、これすごくリアルな人気男優の本音なんだと思います。イ・ビョンホンは映画『甘い人生』(05)で、ヒョンビンも『コンフィデンシャル/共助』(17)で、この道を通ってさらに俳優として成長しました。
フェミニズムをポップに絡め、BLも匂わせつつアクション映画の裏側を覗き見する楽しさも味わえる斬新ラブコメは、気持をスカッとさせニマニマが止まらない面白さです。
作品情報
Netflixシリーズ「その恋、断固お断りします」独占配信中
演出:キム・ジョンクォン
脚本:チェ・スヨン
出演:キム・オクビン、ユ・テオ、キム・ジフン